インターネットがなかった1996年から97年当時、アニメの人気のバロメータを知る方法の一つとして、テレビのアニメ特集があった。たまにテレビでコミケのコスプレ特集などをやるのだけれど、そこに映っているキャラクターで、ああ今こういうアニメが流行ってるんだなと知ることが出来た。テレビで時たまやっているコミケのコスプレ特集は見ていて面白い。お祭り騒ぎの中で皆が思い思いのコスチュームに身を包んで楽しんでいるわけだから、見ていて面白くないわけがない。ブラウン管を通してこっちにまで熱気が伝わってくる。しかしインターネットに比べたら、テレビから得られる情報なんて限られている。そんな中でひときわ目立つ存在がいた。エヴァンゲリオン碇シンジのコスプレをしていたコスプレイヤーの青年である。
僕は確かに彼を見た。当時テレビで何度も。事ある毎にテレビに出ていたような気がする。どのテレビ番組に出ていたのかすっかり失念してしまったが、ハッキリと覚えているのは、とんねるずの「ハンマープライス」というオークション番組だ。確かエヴァ関連のグッズがオークションに掛けられていたと思う。そこに彼は出演していた。やっぱり出たか!という感じだった。いや、ひょっとしたら、彼の青と白のプラグスーツの目に焼き付くようなコスプレはその時初めて見たのかも知れないが、とにかくデジャビュを生じさせるくらいに目立っていた。またその青年、ほっそりとした体つきや顔立ち、更に内気な感じのする性格までがシンジ君にソックリなのだ。
その後、劇場で完結版を見たのだが、劇中に、実写パートがある。深夜に流れている公共広告機構のような雰囲気の実写映像が、淋しげな音楽と共に流れる。電車から見た街の風景、自転車のカゴ、空き缶、空、電線、そこにふと、劇場が映し出される。つまり映画を見ている我々を表しているわけだが、その中にシンジ君のコスプレをしている彼の姿を見たような気がした。
あれから10年経ち、あの青年は今どうしているだろうと、たまに思い出すことがある。ひょっとしたらまたいつかシンジ君のコスプレ姿で、僕たちを喜ばせてくれるかもしれない。